医療は社会を映す鏡 移民の呼吸療法士がBlack Men in White Coats Youth Summitで感じたこと
2026年3月、ロサンゼルスで開催された Black Men in White Coats Youth Summit に参加しました。
このイベントには中学生や高校生など、1000人以上の学生が集まり、医療職について学ぶ機会が提供されました。会場には様々な分野の医師、看護師、放射線技師、臨床検査技師、呼吸療法士など、さまざまな医療職がブースを出し、実際の医療機器やキャリアパスについて紹介していました。
多くの子どもたちが、好奇心に満ちた目で
「どんな仕事をしているの?」「どうやってなれるの?」
と質問してくれた姿がとても微笑ましく、そして眩しく見えました。
しかし、このイベントの背景には、アメリカ社会が長年抱えてきた人種格差の問題があります。
アメリカでは、黒人男性医師の割合は非常に少ないことが知られています。
人口全体では黒人は約13%を占めていますが、黒人男性医師は全医師のわずか数パーセント程度と言われています(女性はさらに少なく、これはまた別の社会問題でもあります)。
その背景には、歴史的な差別や教育機会の不平等があります。
20世紀初頭、医学教育の改革を目的とした Flexner Report(1910年) によって、多くの医学学校が閉鎖されました。その中には黒人学生を教育していた医学学校も含まれており、その結果、黒人医師を育成する機会が大きく減少しました。
さらに現在でも、以下のような社会的要因が医療職への進学に影響を与えています。
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教育格差
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経済格差
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ロールモデルの不足
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医療職へのアクセスの不平等
これらの問題は、Social Determinants of Health(健康の社会的決定要因)とも深く関係しています。
医療従事者の多様性は、単なる「公平性」の問題ではありません。
実際には、医療の質にも関係しています。
人間とは面白いもので、「人種差別はいけない」と頭では理解していても、自分と似ている人に安心感を覚えることがあります。
同じような背格好、同じ言語、さらには同じアクセントや文化。そうした共通点があると、人は無意識に「この人は自分を理解してくれるかもしれない」と感じるものです。
これは決して悪意ではなく、人間の自然な心理の一つです。しかし、その小さな心理が積み重なることで、社会の中で見えない壁が生まれてしまうこともあります。
だからこそ、多様な背景を持つ人々が医療の世界に存在することはとても重要なのだと思います。
研究では、患者と医療者の文化的背景が近い場合、次のような効果があると報告されています。
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患者の信頼が高まる
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医療へのアクセスが改善する
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健康状態が改善する
さてさて、黒人ではない私がなぜこのイベントに参加しているのか。
私は日本からアメリカに来て、医療の現場で働いています。
英語で仕事をすること、文化の違いの中でコミュニケーションを取ること、そして時には自分が少数派であると感じることもあります。
その中で、差別、無視、期待されない、ステレオタイプ、などなど、様々な扱いを受けてきました。
そうした経験をしていると、自分と似た背景を持つ人に安心感を覚える気持ちが少し理解できるようになります。
例えば、病院で日本語を話す患者さんに出会うと、自然と距離が縮まることがあります。言葉だけでなく、文化的な感覚や価値観を共有できることで、患者さんも安心した表情を見せてくれることがあります。
この経験から、医療の現場に多様な背景を持つ医療者がいることの意味を、より強く感じるようになりました。
人は、自分と似た背景を持つ人が活躍している姿を見ることで、「自分にもできるかもしれない」と感じることがあります。これがロールモデルの力です。
特に医療のような専門職では、身近にロールモデルがいるかどうかが、将来の進路に大きな影響を与えることがあります。
今回のイベントは、まさにそのロールモデルを若い世代に見せる場でした。
白衣やスクラブを着た医療者が、自分と似た背景を持っている。
それだけで、子どもたちにとって医療の世界がぐっと身近なものになります。
Black Men in White Coats Youth Summit は、単なるキャリアイベントではありません。
それは、歴史的な不平等を乗り越え、次の世代に新しい可能性を見せるための取り組みだと私は思っています。
医療は社会を映す鏡です。
そして、多様な人々が医療の世界に関わることで、より公平で強い医療システムが作られていくのだと思います。
私はこのイベントに毎年参加できることを楽しみにしています。
そして、少しでも社会に貢献しながら、多くの人たちに呼吸療法士という仕事の楽しさや魅力、そしてその大切さを伝えていきたいと思っています。
もしかしたら、あの日会場にいた子どもたちの中から、未来の呼吸療法士が生まれるのかもしれません。
それだけで、なんだかワクワクしませんか?
参考
Association of American Medical Colleges. (2019). Diversity in medicine: Facts and figures 2019.
https://www.aamc.org/data-reports/workforce/report/diversity-medicine-facts-and-figures-2019
https://www.blackmeninwhitecoats.org/
似たようなことをLinkedIn(英文)で投稿してます。
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